あの雨の日、きみの想いに涙した。
俺は深く息をはいて覚悟を決めた。
『……電話じゃなにも決まらないから直接会わない?』
こんなことを口にするなんて自分でも驚いてる。
俺は父親が憎くて許せなくて一生死んでも会いたくないと思ってた。きっと会ったら俺の中にある憎悪が爆発してなにをするかわからないから。
でも俺の心の中心にある過去と向き合わなければ、俺は本当に変われたとは言えない。
過去を思い出さないようにするのではなく、思い出しても平気なように。思い出しても俺が俺でいられるように。
だから俺は会いたい。
世界で一番許せない男に。唯一の肉親である父親に。
『……わかった』
電話の向こう側から返事が返ってきた。
顔は見えないけどきっと父親は動揺してると思う。そのあとすぐに会う日にちを決めた。平日でもべつによかったんだけど父親が言ってきたのは来週の日曜日。
場所は香月町から少し離れた〝宮母川町〟(くもかわまち)
俺が生まれた町で11歳まで住んでいた場所。そして父親と母親と俺で住んでいた家がある町だ。
あの町を出て香月町に来てから俺はその町に行くことも、町の名前を思い出すこともなかった。だって〝母〟という漢字が入っている宮母川の町はやっぱり母親との思い出も詰まっている町だから。