あの雨の日、きみの想いに涙した。
もしあの時、もし母親が俺の手を引いて一緒に家を出て行ったなら、きっと俺は母と一緒に死んでいた。
父親の暴力から解放されて、ツラい幼少時代を過ごすことはなかった。
なんで俺を置いて行ったのだろうか?
なんで俺も一緒に連れて行ってくれなかったのだろうか?
そんな疑問を抱きながら、あれから5年も生きてきた。
今まで母親にたいして自分だけラクな選択をして、自分だけ幸せな場所に行ったのだと思っていた。
……だけど今ならわかる。
死という選択が幸せではないと知っていたから、俺をこの世界に置いていったんだ。
母をそこまで苦しめた父親をやっぱり許すことなんてできないし、許すつもりもない。
だけど、そんな父親の子どもだからこそ直接言っておきたいことがある。直接言わなきゃいけないことがある。
父親と会うことを母さんはどう思ってるのだろうか。
賛成なんてしているわけがないけど、反対もしていないと思う。わからないけどそんな気がする。
母さんと過ごした時間は短くて、今は声すら思い出せないけど、その温もりだけは肌が覚えている。
俺は仏壇の前で目を瞑り、返事が返ってくるように何度も何度も自分の選択が正しいのか問いかけた。
〝大丈夫。大丈夫だよ〟
頭を撫でながらそう言ってほしくて。