あの雨の日、きみの想いに涙した。
俺に話かけてきた人物は中学校の時の担任だった。中学の2年と3年の時の担任で、いくら人の顔を覚えない俺でも顔ぐらい覚えている。
「はじめて聞いたよ。お前の口から〝先生〟って」
先生は苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
たしかに2年間担任をしてもらったけど、声をかけられなければ気づかずに俺は素通りしていたと思う。
思い出がひとつもない中学生活で担任との思い出もまたひとつもない。正直、先生という単語しか浮かんでこなくて、名前すら覚えていない。
記憶の奥のほうに何度か先生と話した記憶があるけど、ほとんどひと言で終わっていた気がする。
きっと先生にとって俺は嫌な生徒で、できれば関わりたくない存在だったと思う。……いや、そう思ってた。
だから卒業して1年が経とうとしている今、話しかけられたのは意外だった。
「お前相変わらず細いな。ちゃんと飯食ってんのか?」
ニカッと笑いながら先生は俺の肩を叩く。
もし逆の立場だったら俺は絶対俺みたいな生徒に話しかけない。卒業したらそれっきりで、道端で会っても気づかないふりをする。
先生という立場上そういうわけにはいかなかったのかもしれないけど、直感的にこの先生はいい先生だったんだと思った。