あの雨の日、きみの想いに涙した。



「冴木今暇か?ちょっと渡したいものがあるんだけど」

「渡したいもの……?」

俺に思い出がないように、先生にとっても俺に思い出なんてないはず。だけど先生はついて来いと俺の背中を押した。


なんだろう……と疑問に思ったけど、俺はそのまま先生について行くことにした。道端で会ったのも声をかけられたのもなにかの縁だと思ったから。


着いたのは俺の母校である中学校。土曜日にも関わらず門は開いていて、先生は学校の敷地内に足を踏み入れた。


「どうだ?約1年ぶりの学校は懐かしいか?」

俺は口ごもって返事に困った。だって青木と星を見る場所は決まってこの中学で、夜に忍びこんでたなんて口が裂けても言えないから。


「まあ、1年しか経ってないんじゃまだ懐かしくもないよな」

先生は空気を変えるように明るく言った。休日の中学校は静かだったけど、校庭には部活動をしている生徒が姿があった。


「ちょっと中に入ってみるか?」

先生はそう言って昇降口を指さす。学校の敷地内には忍びこんでいたけど校内に入るのは1年ぶり。中に入ると不思議と少しだけ懐かしさを感じた。


「実は今テスト期間中でこうやって休日も仕事なんだよ。さっきは昼めしを買いにコンビニに行ってたんだ」

先生は茶色いスリッパを出しながら笑った。

< 227 / 291 >

この作品をシェア

pagetop