あの雨の日、きみの想いに涙した。
静かな校内で廊下に響くスリッパの足音。階段を上がるたびに響きは増して、先生はその間でも俺に世間話をしていた。
……まさかこんな風に先生と話をしたり、中学を訪れることになるなんて想像してなかった。
「でもまさか冴木とこんな風に話す日がくるなんてな」
俺の心を読んだみたいに先生が同じことを言う。この状況に驚いているのは先生のほうなのかもしれない。
少し歩いて着いたのは3年2組。俺が中学3年を過ごした教室だった。
「ここで少し待ってろ。ちょっと取ってくるから」
先生は教室に俺を置いてどこかに行ってしまった。
ひとりになった空間で、俺は教室をゆっくりと見渡した。懐かしさはあるけれど、やっぱり思い出がないせいかうまく感情が出てこない。
俺は教室の窓際の一番後ろの席に目を向ける。
それは自分が座っていた席。何度か席替えもあったけど、運よくあの席になることが多かった。
教室の隅の席はなんとなくだれとも関わらない俺を受け入れてくれているような気がしていた。
俺は当時を思い出すようにその席へと座る。太陽の光が机を照していて、いつもその光を浴びながら寝ていたっけ。
暖かくなった机に手を置いて窓の外を見た。そこには風に揺れる新緑の木々に青木と星を見たプール。
この席から見える景色だけはいつも飽きずに見ていた気がする。
とその時、先生が教室に戻ってきた。