あの雨の日、きみの想いに涙した。
「待たせてわるい。お、その席に冴木が座ってると懐かしいな」
俺を見るなり先生は懐かしそうに微笑む。
「お前は本当になにを考えてるかわからない生徒で頭を抱えたよ」
俺は少しだけうつ向むいて、もう一度外の景色に目を向ける。
「わかるわけないですよ。なにも考えてなかったんですから」
そう。中学時代の俺はなにも考えてなかった。
ただその場で呼吸をして生きていただけ。先生は「そうか」と優しく返事をして、あるものを俺に差し出した。
「ずっと渡したかったんだ」
その言葉と一緒に渡されたのは卒業アルバム。分厚いアルバムを手に取るとズシリと重たかった。
俺にとって卒業アルバムなんて意味のないもので、受けとることさえしなかったあのころ。それなのに先生はずっと渡したいと思ってくれていた。
「俺は職員室で仕事してるからゆっくり校内でも見て帰れよ。この学校は冴木の母校なんだから」
先生はその言葉を言い残して教室を出ていった。俺はその背中を見つめて、深く深く頭を下げた。