あの雨の日、きみの想いに涙した。



「久しぶりだな」

さきに口を開いたのは父親だった。

父親との距離はわずか数センチ。俺の心臓はまだうるさい。
 

「でかくなったな由希」

その顔は5年前より少しだけ痩せていた。体もひと回り小さくなってる気がするし、目線だって今は俺のほうが高い。

昔と同じように嫌な威圧感はあるけど気迫は感じられない。……いや、父親が変わったわけじゃない。俺が成長したんだ。体も背も俺が父親よりでかくなっただけのこと。


今なら勝てる気がした。

あんなにでかく感じていたのに、今なら負ける気がしなかった。

父親はポケットから煙草を取り出して、それに火をつけた。


父親が吸う煙草は独特の匂いがして、その匂いが過去の俺を連れてくる。父親は吸っていた煙草を俺の顔の前に近づけた。

その瞬間、ビクッ!と条件反射で体が後ろへとのけ反る。煙草を背中に押し付けられたあの時みたいに。

煙草を持った父親はフッと鼻で笑って「吸うか?」とひと言だけ言った。

俺はのけ反った体を元に戻して「吸わねーよ」とその手を払いのける。

ドクン、ドクンと静まったはずの心臓が再びうるさくなっていた。トラウマはやっぱりそう簡単に俺から離れてくれないみたいだ。

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