あの雨の日、きみの想いに涙した。
「そうだな。家族なんて作るべきじゃなかった」
そんな返答が耳に聞こえて俺はギシッと唇を噛んだ。父親へと憎しみが頂点に達して、俺が飛びかかろうとした時……。
「愛しかたもわからねーのに、家族なんてほしがった俺は本当に大馬鹿野郎だよ」
俺の体がピタリと止まる。
ベンチに座る父親は地面を一点に見つめていて、その煙草を吸う手がブルブルと震えていたからだ。
父親は左手で震えた右手を押さえたけれど、とうとう煙草は地面に音もなく落ちた。
「1日酒を飲まなかっただけでこのザマだ。1日だってまともでいられない」
父親の症状は明らかにアルコール中毒だった。酒をつねに飲んでいなければ手の震えが止まらない。
昔から酒が大好きな男だったけど、そこまで依存はしていなかった。俺が見ていた限りではこんな症状は出ていなかったし。
「まともじゃねーのは昔からだろ。酒を逃げ道にするからそういうツケが回ってくるんだよ」
俺は冷たい言葉を父親に言い放った。父親は「そうだな」と再び煙草を吸おうとするけど、震えのせいでうまく吸えない。
そんなに症状がひどいなら酒を飲みながらでもよかったのに。べつに幻滅ならとっくにしてるし、今さらどんな父親を見ても驚いたりしない。