あの雨の日、きみの想いに涙した。



――『1日酒を飲まなかっただけでこのザマだ。1日だってまともでいられない』

なんで1日も酒が手放せないくせに今日に限って抜いてきた?俺と会うから?5年ぶりに息子に会うから?

……いや、父親に期待なんてしない。

たとえそうだったとしても、俺の憎悪は消えない。父親を見ると震える手を必死で押さえていた。


「……いつから?」


父親がどんな風になろうと関係ないけど、気づくと俺はそんな質問をしていた。それと同時に最初に感じた生暖かい風がまた吹いて、地面に落ちた煙草の灰が空に舞う。


「千幸が死んでからだ」

一粒の灰が俺の頬をかすめていった。


千幸(ちゆき)それは母さんの名前だ。父親の口からその名前が出たのは久しぶりで、ずるいと思った。

そんな顔……。母さんの名前を口にしただけでそんな顔をするのはずるいと思った。


たしかに母さんは父親への酒を制限していた。殴られても絶対に酒の隠し場所を教えないこともあったし、母さんが死んで酒を制限できなくなったってことか?

そんな母さんを死に追いこんだのは父親なのに。
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