あの雨の日、きみの想いに涙した。
「由希、本当すまなかった」
父親が深く俺に頭を下げた。
父親と話していた時間はそんなに長い時間じゃないのに、俺には永遠とも言える時間だった。帰り際、父親は少し言いづらそうに口を開く。
「……こんな俺が今さらお前にしてあげられることはないかもしれない。でもいつか……」
「あるよ」
公園に風が吹き抜ける。まるでだれかが俺の背中を押すみたいに。
「息子の幸せを願うこと。それが父親の役目だ」
カチッと止まっていた俺の中の時計が動く音がした。ゆっくりと、歪だけど確実に。
父親は涙を流しながら深く深く頷いた。その瞬間、ずっと震えていた父親の手がピタリと止まる。
人の痛みを知っている人は、人に優しくなれる。
俺はしなくてもいいような経験をして、間違いながら、遠回りをしながらここまできた。
それでも、今まで起きた出来事は全部無駄なんかじゃなかったって。全部今日に繋がっていたんだって思えば……。
なにひとつ許せなかったことが、なにかひとつだけでも、許せる気がした。