あの雨の日、きみの想いに涙した。



父親と別れた俺は暫く宮母川町にいた。数時間前は緊張と不安であまり町の風景を見ることができなかったけど、今は素直に見ることができる。

長年苦しみ続けた過去と向き合い、父親と話したこと。それはきっと俺の人生でもっとも大きいことだったと思う。


今まで重たかった体が嘘みたいに軽い。歩く足取りも軽(かろ)やかだし、ぐんぐん前に進む。

でも……なぜか違和感を感じた。


俺の心の中心にいたはずの父親はいなくなったのに、なぜか隙間なんてなくて、俺の心の中心はいつの間にか青木になってたこと。

心は過去やトラウマで埋めつくされてると思っていたのにそれが全てなくなった途端に青木の存在が溢れだしてきた。

前に進む足は軽いのに、今この喜びをだれかと分かち合えないのがすごくさ寂しい。

今までずっとひとりで生きてきたはずなのに、なんで今青木が隣にいたら良かった、なんて思うんだろう。


きっと俺は青木とも向き合わなくちゃいけないんだと思う。

本当はすごく怖いけど、真実を受け入れて、青木の口から全て偽りだったと言われるのがすごく怖いけど、でも俺はもう逃げない。
< 257 / 291 >

この作品をシェア

pagetop