あの雨の日、きみの想いに涙した。



ポケットからスマホを取り出して電話をかけた。

プルルルと耳元で鳴るコール音。その時間がやけに長く感じて、覚悟を決めたはずの決心が鈍くなる。

『もしもし』

スピーカーから青木の声が聞こえた瞬間、少しだけ泣きそうになった。だって声を聞くのは1週間ぶりだから。


『今日会える?』

俺は声を振り絞って言った。

『うん。いいよ』


なにも知らない青木はきっと父親と会った報告でもするんだと思ってるかもしれない。もちろんその話もするけれど、話したいことはもっとべつのこと。

もしかしたら最後になるかもしれない。

青木は宮野に言われて俺に近づいたんだから。その真実を明らかにしたら、俺たちの関係は終わってしまう。


このままなにも知らなかったことにすれば、青木はまだ俺の隣にいてくれる。

だけど、たとえ青木が傍にいてくれても、笑ってくれていても、そんな偽りの関係ならいらない。

そんな関係ほしくない。

俺がほしいのは偽りじゃない本当の青木だから。

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