あの雨の日、きみの想いに涙した。



中学校に着くと人気はなくて、日曜日の部活動もすでに終わったようだ。俺は閉まっている門を飛び越えて、中に入った。

いつものようにプールがある場所へと向かい、緑色のフェンスに寄りかかる。

青木が来るまでの間、俺はなにを話すべきかなにを聞くべきか頭の中で必死に考えていた。

きっとどれだけ考えても俺はうまく言葉にすることができないと思う。その理由は……。


「冴木くん」

青木に会えて嬉しい気持ちが上回ってしまうから。

青木はTシャツにデニム姿で、俺はあの日のことを思い出していた。

 
「はじめて会った日と同じ格好だ」

「えーそうだっけ?」

変わらない、変わりたく関係性。俺は無意識に青木の姿を焼き付けようとしていた。まるで終わりを覚悟してるみたいに。


「座りなよ」

プールの入り口にあるコンクリートの段差に座り、隣を指さした。青木は少し意味深に微笑みながら横にちょこんと座る。なぜか青木はニヤニヤとしていて俺は首を傾げた。


「な、なに?」

「はじめてだなと思って。冴木くんがそうやって〝隣〟を許してくれるのは」

「……?」

「……私ね、今まで冴木くんの気持ちなんて考えなしに隣にいた気がするの。最初のころなんてとくに強引だったし」

「………」

「だからこうやって隣を許してくれること。すごく嬉しいよ」


たぶん、なにもなかったら。たぶん、こんな気持ちを抱えていなかったら……きっと言えたと思う。

今まで言ったことのない言葉を。俺が知らなかった2文字の言葉を。

本当は今すぐに言ってしまいたい。でも……。


「ねえ青木。それは本当に本心で言ってる?」

俺から出た言葉はその2文字ではなくこの言葉だった。

< 261 / 291 >

この作品をシェア

pagetop