あの雨の日、きみの想いに涙した。
青木は俺の質問には答えず、ただ下ばかりを見ていた。こんな青木を見るのも、こんな息苦しい空間にいるのも嫌だった俺は……情けないぐらい弱い言葉を言った。
「……言いわけでもなんでもいいから言ってよ。俺が勘違いしてることもあるかもしれないし」
震える声。自分でもビックリするぐらい。まるで別れを切り出された彼女に未練がましくすがってるバカ男みたいだ。
「勘違いじゃないよ。私は麻奈に言われたから冴木くんに近づいた」
「………」
「そういう約束だったの。冴木くんの心を奪うこと。一番近い距離の存在になること。それで……」
胸が張り裂ける音がして、息をすることさえ忘れるほどだった。
嘘でもいいからなにか言いわけをしてくれたら、きっと俺は青木の手を掴んで離さなかった。
俺ははじめて女に生まれたかったと心底思った。だってこんなとき人目も気にせずに怒ったり泣いたりできたら、少しはマシになる気がして。なのにこんな時でさえ、男というプライドが邪魔をする。
「わかった。もうわかったよ」
聞き分けがいいふりをした。
本当はなにもわかってないし、わかりたくもないのに最後まで青木の前ではカッコいい自分でいたいと思ってしまう。