あの雨の日、きみの想いに涙した。



それから数日が経ち、その間青木と顔を合わせることも連絡をとることもなかった。 

思えばこれが普通の日常だったはず。ただ単に青木と出逢う前に戻っただけだって、そう割りきれたらどんなにラクなのかなって思う。

こうやって青木を避け続けたら、きっと偶然会ってしまうことはないと思う。


「由希、おはよう」

朝の通学路で後ろからひたすら明るい声で話しかけられた。振り返るとそこには見覚えのある女が立っていた。


「久しぶりだね。って由希は佳奈のこと覚えてないよね」

佳奈という女は苦笑いを浮かべて俺の横に並んで歩く。

「覚えてるよ」

即答で答えると女は一瞬戸惑った顔をしたけどすぐに「そっか」と嬉しそうに笑った。


女の名前も顔も覚えるのはいまだに得意じゃないけど、この女だけは印象に残っている。

――『由希がこんな風に話を聞いてくれたらみんな話を聞いてくれるし、優しくしたらきっと優しくしてくれるよ』

以前屋上で、そう俺に言ってくれた人だから。
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