あの雨の日、きみの想いに涙した。
「由希が変わったってみんな噂してるよ。ここだけの話、前より由希人気あるんだよ」
「へえ」
相変わらずこの手の話には興味がない。そんな俺を横目で見ながら女はクスリと笑った。
「佳奈今ね好きな人がいるんだ!だからどっちが先に幸せになるか勝負だね」
女はビシッと捨て台詞をはいてスキップしながら俺を追い抜いていく。
幸せ……ね。今はそんなことよりこのままでいいのだろうかと思う毎日。青木との関係はもう終わってしまったことなのに、今さらどうにかできる問題じゃないのに。
1限目の授業が終わり、俺は机に顔を伏せて寝る準備をしていた。次の授業は俺が大嫌いな古典で教科書を開くだけで眠くなる。
「冴木、俺トイレ行くけど一緒に行く?」
「行かない。寝る」
俺はうつ伏せになったまま返事をした。前は学校で寝ても、周りの声や視線が気になってイライラしてたけど、今は家で寝るほうが息苦しい。
ひとりだと考えないでいいようなことも考えたりして、なかなか寝つくことができずにいるから。
「冴木くん」
瞑っていた目がパチリと開いた。
この学校で俺を〝冴木くん〟と呼ぶのはただひとり。俺はゆっくりと体を起こして振り返ると、そこには宮野が立っていた。