あの雨の日、きみの想いに涙した。
その言葉が言い終わると同時にキーンコーンカーンコーンと2限目がはじまるチャイムが鳴り響いた。
「……やっぱりすごいな。夏月は」
チャイムの音で聞き逃してしまいそうになった宮野の声。
「私ね、ムリだと思ってたの。夏月にだって冴木くんの心は奪えないって。矛盾してるでしょ?夏月に頼んだのは私なのに」
宮野の黒髪がふわっと風に揺れる。あの頃みたいにメガネはかけていないけど、やっぱりこれは俺が知ってる宮野麻奈の姿だ。
教室の隅にいて、だれとも馴染めなかった少し寂しげな顔。
「私中学のときに友達がいなかったから、遠いところにいる夏月だけが頼りだったの。冴木くんに片想いをしてる間もよく電話で話をしてた」
「………」
「夏月ってさ、昔から友達に囲まれてて。だけど嫌なことは嫌って言うしサバサバしてるのにだれからも好かれててね……」
宮野の言葉がピタリと止まる。見え隠れしていた心の一番奥。きっとだれにも打ち明けられなかった本当の気持ち。
「私ね、夏月のことがずっと羨ましかったんだよね」