あの雨の日、きみの想いに涙した。
そのあと教室に戻った俺はすぐにスマホを取り出して、電話帳の【青木】の文字を暫く見つめた。
ボタンを押せばすぐに青木と繋がれる。今まで何回か青木に電話をかけたけど、きっと一番緊張してるかもしれない。
俺は覚悟を決めて、発信ボタンを押そうとしたとき……。
「おい。授業サボるなら俺も誘えよ」
竹田がポンッと俺の肩を叩いた。その反動でビクッとなった俺は無言で竹田を見つめて「はあ……」と露骨にため息をつく。
「なんだよ?俺なんかした?」
「べつに……」
完全に緊張の糸が途切れた俺はそっとスマホをポケットに閉まった。
考えてみれば今電話をしても休み時間は残りわずかだし、向こうもきっと同じ状況。
大切な話だからこそ、もっと時間がある時にしないといけない。こんなに自分がせっかちだったなんてはじめて知った。
「冴木って意外とわかりやすいよな」
竹田が気持ち悪いぐらいニヤニヤとしている。
「なにがだよ?」
「なっちゃんのことになると、いつも色々考えてる」
ガタッ!!と思わず足を上げたらおもいっきり机にぶつかった。
「痛っ……」
「ほら、わかりやすいじゃーん」
「うるさい」
俺は痛さを我慢して、椅子に座り直す。ムッとしながら目線を窓のほうに向けて頬杖をついた。
「まあ、恋は惚れたほうが負け、なんて言うけどアレは絶対に嘘だよな」
「……?」
「だれも好きになれないで勝つより、だれかを好きになって負けたほうがカッコいいもんな」
竹田がニカッと笑う。
竹田の恋は実らないことのほうが多い。恋愛経験は少なくて野球一筋のだけど筋金入りのいいヤツで、こんな友達がいる俺は本当に幸せだと思った。