あの雨の日、きみの想いに涙した。
『でもだんだん青木は俺が今まで接してきた女とは違うんじゃないかって思いはじめた』
笑う時は笑って、怒る時は怒って、泣く時は泣く。そんな自分には絶対ないものを青木は持っていた。
俺は止めていた足を動かして歩きはじめた。
一歩、また一歩と足が前に進んでいく。
『青木に会って俺は変わらなきゃいけないって思った。変わりたいって。でもどうしても過去の自分がそれを許さなくてダメだった』
父親という大きなトラウマ。切り離したくてもできなくて、いなくなりたいと何度も思った。
『でも、青木はそんな俺の手を握ってくれた』
〝人との繋がりなんてそんなに難しいことじゃないよ。だってほら、今ちゃんと繋がってる〟
あの時、涙が出るほど嬉しくて暗い闇の中から俺を救いだしてくれたんだ。
『きっとその頃からだと思う。青木のことを〝特別〟だと思いはじめたのは』
俺の中に存在しなかった感情。それがなんなのか理解するまで随分と時間がかかった。
空の色が次第に夕焼けへと変わっていく。頬に当たる暖かい光が心地よくて、俺はいつもよりも倍の時間をかけて白石駅に着いた。
駅にはまだたくさん学生がいて、見慣れた制服に他校の生徒。でも俺は話すことを止めなかった。
『だから……今までの青木が全部嘘かもしれないって知ったとき情けないぐらい怖かった』