あの雨の日、きみの想いに涙した。



……とその時、ブーブーと鈍い音が部屋に響いた。薄暗い中で俺のスマホの画面だけが明るくなる。


「ほら、500メモリーの中のひとりからだよ」


竹田が得意気に俺のスマホを指さして、その顔に腹が立ったからスマホを投げつけてやろうかと思ったけど、テーブルの上からは響く振動は鳴りやむ気配がない。

……くそ。俺は不機嫌にスマホを取って部屋の外へと出た。


『もしもし由希ー?今なにしてんのー?』


電話の向こう側の声は店内の騒音に負けないぐらいでかかった。俺は廊下の壁に寄りかかりながらスマホの画面をもう一度確認する。


そこには【奈々子】と表示されていたけれど、名前も顔もなにひとつ記憶の中で結びつくことはなかった。

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