あの雨の日、きみの想いに涙した。
「俺こういうのに慣れてないからからかわないでよ。早くみんなのところに戻ろう」
自分で自分を誉めたいと思うほど、俺は怖いくらいの笑顔を浮かべる。影でこんな努力をしてると知らない長崎はそれでも「大丈夫だって!」と言ってきた。
……ダメだ。もう限界。
とその瞬間、再び自動ドアが開いて穏やかな声が飛んできた。
「千尋、竹田くんが呼んでるよ」
それは青木夏月だった。
女なんて褒めたことはないけど、いいタイミングで来てくれたと思った。
そして長崎は「んー、わかった」とやっと俺から離れて部屋へと戻っていった。
……助かった。本当にあと一秒遅かったら危なかった。
長崎がいなくなってホッとしたけど、俺の沸騰しかけた苛つきが元に戻ることはなかった。
竹田にあとでグチグチ言われそうだけどキレるよりずっといい。
このまま帰ろうと立ち上がって歩きはじめると、「ねえ」と呼び止められた。
振り返ってもそこには青木夏月しかいない。
女と話す気分じゃない俺はもう加藤由希を演じる気力もなくて、シカトして歩き続けた。