あの雨の日、きみの想いに涙した。
「冴木由希。もっと冷たい人かと思ったけど、そうでもないんだね」
少しだけ耳を疑った。
後ろにいるのは間違いなく青木夏月だ。
あの大人しくて消えそうな声で喋る女。
それなのに聞こえてきたのは全然消えそうな声ではなかった。
青木夏月のイメージと声が一致しなくて俺は思わず振り返る。
やっぱりそこには青木夏月の姿。デニムにTシャツ。化粧をしてない地味で冴えない顔。でも最初に見たおろおろした顔ではなく堂々とした表情はまるで別人。
ニコリと怪しげに微笑んで俺を見つめている。
こいつ……今まで猫かぶってたな。
自分を偽ってる女なんか星の数ほどいるけど、こんなにギャップを持った女は初めてだ。
〝青木夏月〟女の名前なんか覚える気のない俺の脳に鮮明にインプットされた瞬間だった。