あの雨の日、きみの想いに涙した。





俺はそのあと家に帰ってベッドに倒れこんだ。
そしてすぐにズボンの違和感に気づく。

ポケットからは一枚の紙切れ。その紙には携帯番号とアドレスが書いてあった。
 
……ちっ。俺は舌打ちをしてその紙を握り潰す。


それは帰り際に交わした青木夏月との会話にさかのぼる。


――『冴木由希。もっと冷たい人かと思ったら、そうでもないんだね』


淡々とした口調で青木夏月が言う。


青木という女は俺のことを知っていた。きっと、最初から気づいていたんだということはこの不適な顔を見ればわかる。

< 46 / 291 >

この作品をシェア

pagetop