あの雨の日、きみの想いに涙した。



俺は言い返すこともせず、逃げるように女に背を向けた。

このままここにいたらダメだ。

俺はクズにはならない、なりたくない。絶対に。


俺の歩く足がスピードが早くなる。ただ青木夏月という女から離れたくて。



『私はね、冴木由希がどんな人間なのか知りたいだけ』

聞かない、聞きたくない、聞こえないふり。


『どんな顔で笑うのか。どんな顔で悲しむのか。そんな冴木由希を……』

『うるせーんだよ。これ以上俺をイラつかせるな。頼むからもういい加減にしてくれ』

そう言った瞬間、タッタッと地面を走る音がした。

青木夏月は俺に突進してくるんじゃないかと思うほどの勢いでこっちに向かってくる。


『なっ……』

再び俺の前に立つ青木夏月はバッと両手を差し出した。

その手はゆっくりと俺の顔の前に移動してくる。そして明らかに手だけじゃない〝なにか〟が視界に飛びこんできた。

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