あの雨の日、きみの想いに涙した。
『これ私の番号とアドレス』
青木夏月の言葉に俺は思わずハッと鼻で笑ってしまった。
〝冴木由希にとってどっちが必要だと思う?〟
さっきの言葉が頭をよぎる。俺は迷わずに手を伸ばした。伸ばしたさきは右手のスマホではなく、左手の紙切れ。
『アンタ、面白いね』
紙切れを親指と人差し指に挟んで青木夏月の前でペラペラと揺らす。
青木夏月は少し驚いた顔をしていたけど、ずっと気が張っていたのか力の入った肩が少しずつ下がっていった。そして……。
『本っ当、バカらしくて吐き気がする』
俺は紙切れを握り潰して、そのままコンクリートへ投げ捨てた。青木夏月の思考が一瞬止まったのを見て、その隙に自分のスマホを奪い取る。
『わかっただろ?俺ってこういう人間だから』
そう吐き捨ててその場を去った。