あの雨の日、きみの想いに涙した。
警察に失踪届けを出した1か月後、母親は見つかった。
遠く離れた山奥で、首を吊って自殺していた。
おじいちゃんとおばあちゃんはショックで泣きじゃくっていたけど、俺はなぜか涙が出なかった。
母親の遺留品から父親の暴力に関するメモが出てきたけど、それは結局なんの証拠にもならなかった。
DVの決定的な証拠は暴力の痕跡。家を出て行く時にはあったアザや傷は、1か月経って見つかった母親の体にはもう跡形も残っていなかった。
当然と言えば当然だ。1か月もすればアザは綺麗になくなる。
それに山奥ということもあって、その間に負った擦り傷や切り傷、転んだ跡も見つかったため夫の暴力でできた傷なのか判断が微妙になっていたこともアイツが罪に問われなかった原因のひとつ。
不条理な世界だと思った。
母親は暴力に耐えきれずに自殺した。これは誰がなんと言おうと明らかなのに。だけど同情する気にはなれなかった。
母親が死んだのに涙も流さないなんて、我ながら本当に冷たいヤツだと思う。
でも俺は昔からこういう人間だった。
やっぱりネジがぶっ飛んでるらしい。