あの雨の日、きみの想いに涙した。





俺は絶対に女を名前で呼ばない。

ひとりの名前を呼んだら全員を呼ばなきゃいけなくなるし、顔も覚えられないのに名前なんて覚えられるわけがない。

女はいつも下の名前で呼んでと強要する。そのほうが特別だからって、そのほうが親しげだからって。

でも青木夏月は名字で呼んでと笑う。

〝青木〟

なぜだか呼べる気がした。


それは名字だからかもしれないけど、俺にとって女は全員同じに見えて、女は女というひとつのカテゴリーで認識しているのに、青木夏月はなぜかその枠には入らなかった。

それがなぜなのかなんて、説明できるわけがないけど、今までにない変化だということはたしかだった。

< 90 / 291 >

この作品をシェア

pagetop