先生と私
「俺、ここに入ったばっかの時、彼女いたんだ。」
初耳だょ。
胸が苦しくなる…―
「彼女も他の学校の教師で3年くらい付き合って別れた」
「何で、別れたの?」
花村先生の質問は私が聞きたかった事だった。
「彼女が心代わりしたんだ。牧野先生に。」
先生は話を続けた。
彼女は牧野先生とは研修先で会ったんだって事。
それから急に態度が変わって連絡がなくなった事。
今にも泣きそうな先生の声に私は胸を潰されそうな程の痛みを覚えた。
「でも、名波さんは彼女とは違うでしょ」
「彼女以上に怖いよ。若いし、生徒だしね。大事だょ。」
「だってょ。名波さん、出てきなさい」
私は名前を呼ばれてハッとした。
佐藤先生の前に立つと泣きそうになった。
先生は私が好きですか?
誰よりも何よりも好きですか?
いつも聞きたくなるその声で、耳のそばで聞いていると心地よいその声で好きだといってほしい。
「冷たくするなら理由を言ってからにしてよ」
椅子に座ったまま驚いた顔で私を見上げる佐藤先生にそう言った。
「そしたら耐えられるかもしれない」
花村先生は私に少し微笑むと教室を出て行った。
「私は彼女とは違う」
―…!!!
先生は私の腰に抱きついてしばらく離れなかった。
私はただ頭を撫でてあげた。