フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
言ったとたん、麗は私の襟元から手を放し、フラフラとした足取りでどこかへと去って行った。次の授業がある書道教室とは反対側の方向だ。彼女の顔はすっかり生気を失い、まるで幽霊のようだった。
 麗がいなくなると、突然拍手がわき起こった。女子ばかりかと思いきや、男子も拍手していた。
「村瀬、よく言ってくれた!」
「本っ当、あの女腹立つよね!」
「みんなから無視されているのに、ぜんぜん反省していないんだもん。どうやったらあんなに強気になれるのかしら?」
女子がそうささやいているかと思えば、男子は男子でボヤいていた。
「ここ最近の高嶋、ちょっとやりすぎだったよな」
「ああ、さすがにウザかった」
「いくら美人でスタイル良くても、性格キツイ女はゴメンだぜ」
「俺も!やっぱり女には癒して欲しいよなぁー」
しかし私はあんまり嬉しくなかった。嬉しいどころか、とても悲しかった。号泣したかった。
―麗をやりこめて嬉しいはずなのに、胸が張り裂けそうなくらい悲しかった。―
(こんな気持ちになるなんて、予想外…)
「美羽ちゃん、書道教室へ行って休もう」
「…うん」
「琴美は私の手にハンカチを握らせると、そっと体を抱きしめてくれた。私の心は少しホッとした。すると、涙が一筋スーッとこぼれた。私は盛り上がるギャラリーに気づかれぬよう、慌てて拭いた。
 勇太は琴美と反対側に立つと、私の顔を心配そうにのぞき込んだ。ただ、何も言おうとしない。『悪いことをした』と思っているのだろう。そして私も何も言えなかった。気遣う余裕がなかった。
 胸の奥底からわき起こる悲しみに耐えるので精一杯だった。
(私、麗の言うとおりアホな女かも。麗と向かい合うと、毎回同じようにケンカしている。ぜんぜん学習していない…)

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