フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
葛藤~麗の場合
 同時刻。同じく自室にこもった麗は、机に向かい目の前に置いた携帯電話を眺めていた。しかし、かける気配はない。じっと見つめていたかと思えば、『アァーッ!』と金切り声を上げ、自慢の黒髪をかきむしった。
 部屋はカーテンを閉め切っているため暗く、あるのは小さなデスクライトだけだった。その光を頼りに室内を見渡せば、六畳ある部屋の中はひどく散らかっていた。
 本棚の中の物は全て床に投げ捨てられ、机の上の教科書などもバラまかれていた。壁に貼ってあった憧れのバドミントン選手のポスターもビリビリに破かれ、ウェアーやハーフパンツも粉々に切り刻まれ、切れ端になっていた。ラケットなどはガットが全て切られ、真っ二つに折り曲げられていた。
 麗にとってこの二日間は、全てが悪夢だった。大好きな物を全て取り上げられ、これまで信じてきた物を否定された。負けずに取り返そうとしたが、従順だった親友にまで噛みつかれ、結局、あまりのショックに全てを手放してしまった。
 どうしていいか、わからなかった。
(私だって、みんなに悪いと思っているの。でも…)
―どうしても謝れない。プライドが邪魔して、できない。―
誰かに謝るなど、屈辱的だった。死ぬほど恥ずかしかった。今まで様々な場面で一番になるために、寝る間を惜しんで勉強、スポーツ、オシャレと努力してきた。血の滲むような努力をしてきた。みんなにチヤホヤされるのは気持ちよかったから。
 麗はボロボロと涙をこぼした。このままでは一人ぼっちになる上、つまらない人間になってしまうかもしれない。誰にも見向きされないかもしれない。そんなの寂しすぎる…
 自分のやってしまった事を後悔し、涙がまたこぼれた。
 麗は、暗くて長いトンネルに入り込み、抜け出せないでいた。

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