フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
ふいに勇太は笑った。ちょっと苦笑い。しかしカッコつけているポーズととても相性が良く、よりステキに見えた。
(きっとみんな喜ぶだろうな)
とった写真をチェックしつつリビングに入ると、誰もいなかった。一年中どの季節でも空腹を刺激するたまらなく魅惑的なカレーのスパイシーな香りだけが漂っていた。おそらく朝、作ったに違いない。
「お姉さんはいないの?」
「ああ。学校帰りに友達とケーキ屋をはしごするんだって言っていた」
「はしご?…って、お姉さん部活していないでしょ?三時半には下校するだろうから、それからずっとケーキ屋を回っているって事?な、何軒回っているの?」
「三軒は固いよな。ま、おしゃべりが好きだから、しゃべって時間経っているのもあるだろうけど、本当、側で見ている俺が胸焼けするくらいケーキを良く食べるんだ」
「よっぽど好きなんだね」
「ああ、筋金入りだ。きっとさんざん食べたのに、家でも食べる分買って来ると思う」
「ハハハ、すごいね」
私は呆れ気味に笑った。ケーキは好きだが、そこまで食べない。考えただけで胸焼けしそうだ。
 しかしハタとあることに気づき、ドキッとした。
(…って事は、勇太君と二人っきり?ど、どうしよーっ!)
私は両手で頬を挟み硬直した。急にこんな展開になるなど、考えてもいなかった。妄想だけで終わると思っていた。なぜなら、密着取材をする時、勇太は『毎日姉が家にいます』みたいな事を言っていて、私はそれを信じて疑わなかった。
(ま、まあ…私、ブスだし、貧乳だし、下半身デブの上、今ジャージ着ているから、まったく色気が出ていない。きっと勇太君がムラムラするような事はないと思う。…でも、男の子と二人っきりなんて初めてだから、ものすっごく、緊張する!)
勇太を見れば、冷蔵庫からいつものように食材を出し、サラダの準備を始めた。変わった様子はない。

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