フェアマン～愛しい彼はハーフの男の子～

「村瀬さん、食べないと冷めてマズくなるよ」
「あっ、う、うん。すぐ食べるよ」
するとふいに、彼のちょっとした変化に気づきドキッとした。スプーンを持つ彼の手が震えていたのだ。姉がいる時はそんな事なかったのに。
（勇太君も緊張しているんだ。モテるから女の子と二人っきりなんて慣れていると思っていたけど、違ったんだね。ゴメン）
心の中で謝ると、カレーを一口食べた。
「うん、おいしい！お母さんの作ったカレーよりおいしい！」
「マジで？」
「サラダも、おいしい。盛りつけもキレイだよ」
「マジで？」
「ウフフ、『マジ』の使い方、うまくなったね」
「学校に入ってすぐ覚えたから、使う回数が多いと、うまくなるのも早い気がする」
「そうかもね」
私達は顔を見合わせ『フフフ』と笑った。でも二人とも笑顔はぎこちなく、会話もあまり弾まずに食事を終えた。
　使った食器を軽く水洗いし、食器洗い乾燥機に入れると、私は携帯電話で記事の下書きの続きを書き、勇太はすでに仕上がっている記事をブログへ打ち込んだり写真を取り込んだりした。
　室内は私が文章を携帯電話に打ち込む『ピッピッ』と言う音や、勇太がパソコンのキーボードを叩く『カタカタ』と言う音、冷蔵庫の『ブォーン』と言う動作音だけが響いていた。あまりにも静かなので、変な感じだった。
　勇太のお姉さんであるカレンがいる時は、もう少し賑やかだった。彼女は私と勇太に気を使い、ブログ関係の事をやっている時は、イヤホンを使ってテレビを見てくれていたのだが、バラエティー番組だけでなくどんな番組を見ても、必ず『フフフ』と笑っていた。私の家族なら筋金入りの庶民なので、きっともっと豪快に『ガハハ』と笑うのだろう。
　なのに今日は、カレンの『フフフ』と笑う上品な声さえ聞こえない。