フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
(もう、死んでも良い…)
瞬間、私は天国へ旅立った。
(いや、ダメダメ!勇太君は外国育ちだから、ハグとか慣れているのよ。向こうじゃ挨拶代わりだもんね。そう、挨拶。これは挨拶なの!私に恋愛感情を抱いているわけじゃない!」
しかし勇太がなかなか抱擁を解かないので、私の理性はじょじょに壊れだした。
(ああ、でも、ちょっとくらい私を好きでいてくれたらいいな。本当にちょっとでいいから。そうしたら、きっかけがあれば『いっぱい大好き』になるかもしれないから)
ドサクサに紛れ腕を回して見た。理想的な胸板の厚さだ。
(毎日こうしていたい…)
気づけばすっかり理性の限界は突破し、頭の中に欲望が渦を巻いていた。グルグルグルグルと渦を巻いていた。めくるめく愛に翻弄されていた。
 すると抱擁は緩くなり、替わりに抱きしめていた彼の手は、私のアゴを優しくつかんだ。
「…え?」
上を向かされれば、情熱的な視線が真夏の太陽のように強く注がれていた。私の心はすべて囚われ、目をそらせない。釘付けになった。
 ふいに、違う空気が私と勇太を包んだ。とても甘くて濃厚な、蜜のような空気が。今まで誰とも付き合った経験がない私でも、勇太が何をしたいのかわかった。
(『キスしたい』…そうでしょ?)
思って間もなく、勇太の顔が近付いてきた。私は目を閉じ、初めての衝撃をしっかりうけとめようと思った。
(勇太君になら、どんな事をされてもいい。体だって奪われてもいい!)
勇太の体温を感じ、あと少しの時だった。
 突然、『ただいま!』と言う、明るい女性の声が聞こえた。私と勇太はハッと息を飲むと、慌てて離れた。
「あれー?誰もいないのかなぁ?」
部屋に足音が近付いてくれば、勇太は急いで椅子に座り、私は部屋の中をウロウロした。





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