フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
 コンクリートでできた二階建ての建物の高さにあるホームへ続く階段を見つめると、『行くぞ!』と心の中で叫んだ。思いのまま一歩を踏み出せば、一段飛ばしで駆け上がった。
 ホームに着くと、三分後に快速電車が滑り込んできた。迷う事なく乗り込めば、空いている席に腰を下ろし綿密な作戦を練った。少しでも勝率を上げたかった。
 ほぼ予定通り目的の駅に着くと、改札を抜けて駐輪場へ向かった。ここは勇太の家へ行く時に乗った電車の駅。戻って来たと言うわけだ。
 愛車の真っ赤な自転車は置いていった時と変わらずあった。カゴに通学と部活兼用のバッグを乗せ鍵を開けると、ラケットケースを右肩にかけたまま自転車に乗り、駅の真ん前をまっすぐ延びる道を走り出した。
 駅の真ん前をまっすぐ延びる道は商店街になっていて、ファストフード店やスーパー、クリーニング店やカラオケ屋が軒を連ね、会社帰りのサラリーマンや、ちょっと遊んだ高校生、大学生が大勢歩いていた。私はぶつからないよう、ゆっくりペダルを漕いだ。いつも家に帰る時はバス停がある左方向へ向かっていくのだが今夜は違う。
―麗の家へ向かっていた。―
(琴美でダメなら私が行く。私も直接行って、少しでもいいから前へ進む切っ掛けを作る!)
人にぶつからないよう注意しながら商店街を抜けると、ちょっとしたオフィス街の前を通り住宅地へ入った。このあたりまで来ると、歩いている人はまばらで信号も無く、さきほどとはうって変わって快調に自転車を飛ばした。
 走ること15分。住宅地の中でも特に大きくて立派な一軒家の前で止まった。麗の家だ。何度も来た事があるが、いつ見てもお城のように立派だった。私の住んでいるオンボロ官舎とは雲泥の差だ。
(お父さんは一流商社のエリートサラリーマンで、お母さんはフラダンスの有名インストラクター。二人で稼げば、こんな立派な家も建てれるんだ)
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