フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
叶わぬ夢とわかっていながらも、『こういう家に住みたい』とため息が漏れた。
 しかしすぐ気を取り直すと、インターフォンの前に立ち深呼吸した。もしかすると、すぐ麗が出るかもしれない。そうすれば、もめることは必至だ。
 覚悟を決めると、思い切ってボタンを押した。
(『何しに来たのよ』って言われたら、『話しがあって来たの』って言うぞ。『何しに来たのよ』って言われたら、『話しがあって来たの』って言うぞ。!)
相手が出るのを待っている間、考えていたセリフを頭の中で繰り返し練習した。
 とたん、出たのは麗のお母さんだった。『ハァーイ、どなたぁー?』と言う、とても柔らかな口調に、私の戦闘意欲はグラついた。
「あの…む、村瀬ですけど」
『あら、美羽ちゃん、お久しぶり!元気だった?』
「もちろんです!元気は私の取り柄です!」
『いいわねぇー、若いって。私ったらここ最近、五十肩になっちゃって、フラダンス踊るのも大変なのよぉー』
オッホッホッ、と麗のお母さんは優雅に笑った。あんまりにも優雅なので、私まで優雅な気持ちになりそうだった。
(危ない危ない!麗に会わなくちゃならないのに、ノンビリしていたらダメだ!)
「おばさん、私…麗に会いに来たんです!」
『まあ、日中は琴美ちゃんが会いに来てくれたのに、美羽ちゃんまで来てくれたの?』
「その…琴美、麗に会えなかったみたいだから…」
『ゴメンなさいね。あの子ったら、珍しく巣ごもりして出て来ないのよ。冬までまだ大分日があるのに、もう冬眠する気なのかしらねぇ』
「冬眠?」
『あっ、でも、美羽ちゃんまで来てくれたから、私、呼びに行って来るわね』
「お願いします」


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