フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
「世の中、ウマの合わないヤツもいる。でも、その人を好きだって人もいるんだ。何でもかんでも自分の尺度で測っちゃダメだ。『自分と合わない人もいる。そう言う人とは距離を取りながら、それなりにやっていく』大人になりたいなら、必要な考えだ」
「絶対、いやっ!」
「まあ今、目の前に美羽ちゃんがいるから素直に『イエス』とは言えないだろう。今晩一晩考えてみたらいい」
「イヤだって言っているでしょ!」
「もちろん、父さんの意見は絶対でない。麗の思う道を突き進んでもいい。ただ…」
お父さんは私をチラリと見た。
「これまで気づき上げてきた物は、全て捨てなければならないけどな」
麗はハッと息を飲んだ。
「今の人間関係は、多くが麗の意見に『ノー』と言っているからね。どうしても自分の意見を押し通したいなら、受け入れてくれる人を新しく探さなければならないだろう。…父さんは、麗の考えは道理に反していると思うから」
麗は沈黙したまま床を見つめていた。お母さんも、圭介さんも、亮君も何も言わない。黙って麗を見ているだけ。
 すると麗は私からゆっくりと手を放し、部屋の中へ入って行こうとした。さっきまでの強気は少しも感じられない。まるで試合に負けたスポーツ選手のように落ち込んでいる。
 私はかわいそうに思い、でも立ち直って欲しくて、あえてキツイ事を言う事にした。
「このまま負け犬にならないで。弱い自分に勝って!」
ピクリ、と麗の背中が動いた。
「みんな本当は、また仲良くバドミントンしたいんだよ。このまま終わっていいなんて思っていないよ」
「・・・」
「明日、学校に来るの待っているから。来てね!」
バタン!と音をたててドアは閉まった。しかし私は、さらに言った。
「待っているからね!」
私の叫びは閉じたドアに反射し、空しく響いた。
(本当に、本当に待っているから!)
明日の朝、奇跡が起こる事を信じ、心の中で叫んだ。

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