フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
ウロウロあたりを見回していると、100メートルのストレートコースのスタート地点あたりから、野太い声で『麗ちゃーん!』と叫ぶ声が聞こえた。
(麗ちゃん?麗、本当に来てくれた?)
覚悟を決めたのに、不安でドキドキした。携帯電話のサブディスプレイを見れば、まだ7時35分。登校時間まで間があるのに、思わず琴美がいないか探した。彼女にすがりたかった。
 すると遠くの方から『麗ちゃん、かわいい!』、『写真より生の方がずっといい!』と叫ぶ男子の熱い声が聞こえた。
(写真より生の方がずっと良い?何だソレ?叫んでいるの、追っかけをしていた男子じゃないの?)
どうにも興味をそそられ、フラフラと人垣に近付いた。不安で心臓はドキドキしていたが、好奇心を満たしたい思いの方が優っていた。
 正門のところには、入り口をふさぐよう男子の厚い人垣が出来ていた。これまでで最高の厚さだ。その人垣をかきわけるよう進むと、見慣れない光景があった。
(へ?)
登校して来た麗が、色んな学校の制服を着た男子生徒に握手を求められたり、携帯電話で写真を撮られたりしていた。まるで月曜日の勇太のようだ。
 麗はけっこう嬉しそうで、積極的に手を振り返したり、握手をしたりしていた。ただ、よく見ると目の下にできたクマは濃く、顔色も悪いのがわかった。とても疲れているように見えた。
(昨日見た時は暗かったからあんまり感じなかったけど、こうして光の下で見ると、ずいぶん疲れているように見える。学校を休んでいた二日間、私が考えていたよりずっと悩んだのかもしれない)
そして麗と追っかけ男子生徒達が正門を過ぎようとした時、麗は何かを探すように右を見たり左を見たりした。いつまでも見ていた。
 とたん、私と目が合った。麗はハッとして息を飲み目を大きく開いた。
(麗、もしかして私を捜していた?)
しかしすぐ目をそらしてしまった。彼女の横顔はとても不安そうに見えた。
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