フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
 だが誰も気づかない。すぐ側にいる追っかけの男子はもてはやすばかりだし、勇太の追っかけをしている女子は麗の美貌に嫉妬し、『あんな女のどこがいいの?大した事ないじゃない』と陰口をたたくだけ。
 私はだんだん自分の考えに自信が無くなってきた。
(側にいる人が誰も麗の変化に気づかないって事は、私の気のせいかもしれない。だって麗の周りには20人くらい男子がいて、勇太君を待っている女子が100人以上はいる。なのに1人も『大丈夫?』って声をかけない。見間違っただけかも)
考えを巡らせていると、誰かが私の左肩をポンと叩いた。振り返るとそこには、見知らぬ人が立っていた。
(えっ?)
私の肩を叩いた人はとても背が高く、周囲の人より頭一つ分抜きん出ていた。
 ただ、白いTシャツに革製で黒色のベストを着て、革製のリストバンドを両手首にし、やけに長い足を強調するかのようなインディゴブルーのジーンズを履いた姿は、ロックミュージシャンなのに、中南米からやって来たレゲエミュージシャンかと思うようなドレッドヘアーに濃い色のサングラスをかけた顔はひどくミスマッチで、怪しいことこの上ない。肌の色が抜けるように白いのも、怪しさに拍車をかけた。
(なっ、なんでこの人私に声をかけて来たの?何かの勧誘?今時のセールスマンは、こんな格好をしている人もいるっていうの?)
私はあまりの恐ろしさに早くも脱走体勢に入った。
 とたん、レゲエ男は私の左手首をつかんだ。
「ヒッ!」
「ま、待って。俺だよ!」
彼の声は、すごく知っている気がした。しかし恐怖の方が先に立ち、冷静に考えられない。周囲にいる大勢の人が一人もこちらを見ない事も大きかった。全員、麗の動きと、いつ勇太が現れるかに夢中で、あきらかに怪しいレゲエ男にはまったく気づかなかった。
(誰か!誰かこっちを見て!私、さらわれそうなの!変な物を売りつけられそうなの!一人でいいから、気づいて!)
すると頭の中に琴美と勇太の顔が浮かんだ。



 
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