フェアマン～愛しい彼はハーフの男の子～

―勇太の発した言葉は、私達が胸の中に抱いていた、形のない物を形にしたから。それは私達３人の関係を修復する、最も大切な物、『鍵』だった。―
「これは俺の考えなんだけど、人間ってどんなに大勢の人からほめられても、１番大切な人にほめられないと満足しないと思う。悲しくて寂しいと思うんだ。そして気付かないうちに、１番大切な人を傷つけて、愛を奪おうとしている。周りの人が見たら、『アイツ変だ』って言うような事をして。２人の溝は深くなっていくばかりなのに」
「ハッ、ずいぶん偉そうな口をきくようになったものね。私が数日いないうちに、得意のパソコンで調べた？」
「いいや、俺が自分で気付いたんだ」
「あら、大したものね。パソコンオタクにも、ヒラメキの神は降りてくるのね」
「ああ、そうさ。この学校のみんなは俺にとても良くしてくれるけど、長い間友情を育んできた友達はここにいない。一番会いたいし話しをしたいのに。…すごく寂しいよ。でも高校生の俺はアメリカ行きの航空券代を出せるほどお金を持っていない。そして彼らも僕と同じ理由で来れない。せいぜいメールのやり取りや電話で話すくらい」
めずらしく麗は何も言わなかった。だまって勇太の話を聞いていた。
「だから俺はわかる。高嶋さんの気持ちが」
勇太は服の上から自分の胸をギュッとつかんだ。
「ここはずっと、渇いている」
私と琴美はよりいっそう目を大きく開き、麗を見た。そして太ももの横で握りしめた拳をさらにきつく握りしめた。爪が皮膚に食い込み、今にも肉を切り裂きそうだ。
「もう、そうやって強がるのは辞めよう、高嶋さん。第三者の僕が言うのは偉そうだけど、村瀬さんや田畑さんと仲直りするのはきっとこれが最後のチャンスだよ。これ以上プライドを保つ事ばかり考えていたら、せっかく開きかけた優しくて親切な君の心は扉を閉ざしてしまうんじゃないかな。『みんなと仲良くしたい』って言う、心の扉は堅く閉じてしまうんじゃないかな？」