フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
 ふつうに考えると良いスマッシュは打てなさそうなのだが…
「ウゲッ!」
「ごめーん!自分のラケットじゃないから、うまくコントロールできないの」
「ふ、ふんっ!次は気をつけろよな!」
同じ二年生の男子相手にプロ級のスマッシュを決め、ビックリするくらい翻弄していた。彼女の強さは、道具の善し悪しではないらしい。
 ただ、麗の楽しそうな顔を見ていたら、なんだか私も楽しい気持ちになった。彼女のようにナイススマッシュを決められそうだった。
「ねえ、『勇太君』。打ち合いしよう!」
「いいよ。でも、お手柔らかに。『村瀬さん』」
隣に立っていた勇太に声をかけると、勇太はすぐに頷いた。私達はニッコリ微笑み合うと、空いたスペースで始めた。その様子は恋人ではない。まだまだ世話係と新人だ。
 部活が始まる前、私達は付き合っている事をしばらくの間、公表しない事に決めた。ブログが明日終わる。終わったばかりでは女子の熱は未ださめやらないはず。そんな時に『恋人宣言』をすれば、私がひどい目にあうと思ったのだ。
(デートする時はちょっと不便だけど、なんか芸能人になったみたいで嬉しい。せっかくだから、不便さを楽しんじゃおうかな)
私はこっそり微笑んだ。
 ただ初デートに落語は見に行かなかった。『渋すぎる』と勇太がボヤいたから。今回は少し遠くにある映画館でアクション系の映画を見た。これはこれで、十分楽しかった。
 翌年の夏。高校3年生になった私達は地区大会を無事勝ち抜き、全国大会へ駒を進めた。そして熱い夏の日差しに負けない情熱を燃やし、高校での部活を締めくくるにふさわしい成績を残した。
 男子は部長の新垣がシングルスで2位になり、勇太は6位。10位以内には2年生が1人入った。

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