フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
 気は強いけど、美人で頭も良く部活の後輩の面倒もよく見る彼女は、私の憧れの存在だった。大好きだった。自分も彼女のようになりたいと思った。
 私の心の中は、彼女に裏切られた思いでいっぱいだった。今まで信じてきた気持ちを全部踏みにじられた気がして辛かった。
 よくドラマで『ダマしたのね!』と男性に向かって叫ぶ女性を見るが、今の私はきっとそんな感じ。まるで詐欺にあった人のようだ。
 誰もいない屋上へ駆け上がると、フェンスのある端まで全力で走り、両手でわしづかんだ。ガシャン!と渇いた音をたて、鉄製のフェンスは外側へ膨らんだ。
「はあ、はあ」
荒い呼吸のまま体を二つ折りにたたむと、頭を下げた。すると、頬を熱い液体がダラダラと流れ、コンクリートの上にボタボタと落ちた。まるで通り雨が降ってきたかのように。
「…んぐっ、えぐっ」
液体の出所は私の目。痛いくらいしっかり閉じているのに、ちっとも止まらない。噴水のように、どんどん溢れてくる。
「えぐっ、えぐっ…うっ、うわぁん!」
涙は心が苦しくて辛い思いを吐き出そうとしているモノ。でも、みんなの前で泣くのは恥ずかしくて、屋上へ逃げてきた。
(このまま麗と絶交になっちゃうのかな?麗は絶対、勇太君を受け入れないのかな?)
そんな思い頭の中をグルグルと駆けめぐった。何度も何度も駆けめぐった。しかし答えは見つからない。ひたすら泣き続けた。
 ふいに、足音が聞こえた。涙もぬぐわず見れば、頬を真っ赤にして荒い呼吸を繰り返す琴美が立っていた。彼女の両手には、2人分の教科書とノート、ペンケースが抱えられていた。
「美羽ちゃん、大丈夫?」
「琴美…」
「急に飛び出すから、心配になって探しに来たんだ」
そう言うと、琴美は左手に全部の教科書やノート、ペンケースを持ち、右ポケットに手を入れた。中からハンカチを取り出せば、私の頬をそっと拭いてくれた。
 琴美の優しさに、再び私の目頭は熱くなった。鼻の奥がズンとして、ボロボロと涙が溢れた。
 
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