フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
(もう、何よ。私に『入りなさい』って言ったクセに!)
案の定、湯船には気持ち良さそうな顔をした母がつかっていた。
「何の用?」
「私に『入れ』って言ったのに、何で先に入っているのよ」
「5分待っても10分待っても、メール打つのに夢中になっていて、ぜーんぜん部屋から出てこないんだもの。こりゃ入る気ないんだ!と思って先に入ったのよ」
「ちょっとくらい待ってくれたっていいじゃない」
「20分も待ったのよ」
「えっ、そ、そう?」
「これ以上待ったら、せっかく入れたお湯がぬるくなって、追い炊きしなきゃいけなくなるでしょ。エコロジーはもちろんの事、育ち盛りの娘は、教育費、食費、洋服代、携帯電話代、部活代と、すっっっっっごく!お金がかかるの。切りつめれるところは切りつめないと、全国大会への切符を手にしても行かせてあげられないわ」
「に、20分くらい、た、たいしたことないじゃない」
「1回自分を許すと、どんどん甘くなるの。そうしたら、せっかく身につけた節約術を捨てて、浪費へ走ってしまう。贅沢三昧よ。お金はどんどん、どんどん無くなって、部費どころか携帯電話代さえ払えなくなるかもしれない。きゃー、困っちゃう!」
私は母の叫びを聞き終える前に、こっそり風呂場を抜け出した。母の言う事はもっともで、耳が痛くて最後まで聞いていられなかった。
(母さんが上がってくるまで待とう。なーに、テレビじゃ楽しいバラエティ番組がやっているさ。30分くらい余裕でつぶせる!)
私はリビングへ向かって意気揚々と歩いた。
 入って間もなく、私の部屋からお気に入りの歌が聞こえてきた。携帯電話の着信メロディーで、電話がかかってきたら鳴るよう設定したものだ。
 急いで部屋に入り携帯電話を手に取ると、サブディスプレイを見た。そこには琴美の名前が表示されていた。
(わあ、琴美だ!もしかして、心配して電話してきてくれたのかな?)
急いで二つ折りになっている携帯電話を開けば、通話ボタンを押し受話口に耳をあてた。
「もしもし?」


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