フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
琴美の言うことはもっともだと思った私は、渋々口を閉じた。麗も同じ気持ちだったらしく、それ以上何も言わなかった。
 とたん、私はあることに気づいた。
「ねえ、琴美。ハーフの彼って、日本語しゃべれるのかな?」
「そりゃそうだよ。じゃないと、公立の学校になんて通えないよ。うちの学校、英語は担当の矢田先生しか喋れないハズだし、矢田先生が彼につきっきりってワケにもいかないでしょ。日本語が喋れなかったら、受け入れないよ」
「そうだねー」
「第一、転校してくる彼のお母さん、日本人だもの。日常会話くらいしゃべれるよ、きっと」
「あ、そうだね!」
うなずいたとたん、教室の前のドアが開いた。すると全員一瞬で会話を止め、入り口を食い入るよう見た。後ろを見ていた私はハッとして振り返り、同じように見た。
 しかし『おはよう』と言って入ってきたのは、担任の男性教師だった。左手には出席簿を持っている。みんなガッカリした。
「あっ!」
ただコマキがドアを指させば、全員0.5秒で指し示す方を見た。そして目をキラキラと輝かせた。担任が入ってきたドアに隠れるよう、男子学生が一人立っていたからだ。右肩の一部しか見えないので、どんな顔をしているかわからないが、テンションは一気に上がった。
(このタイミングで来たって事は、きっと転校生だよね。ハーフの彼だよね!)
私の心臓はドキドキではち切れそうだった。胸の前で組んだ手にも、自然と力が入った。
「はい、みんな。扉の向こうに立つ新しい仲間が気になるのはわかるが、ひとまず席につこうか。じゃないと、空いた席だらけで、彼がどこに座っていいかわからないぞ」
「本当だ!」
「すぐ座ります!」
担任が笑いながら言うと、私を含め立っていた生徒全員が一斉に座った。そしてすぐ、空いている席を探した。転校生の彼が座る席をだ。


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