フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
重い気分のまま用具庫を出ると、体育館では次のメニューであるサーブ練習に移っていた。館内をグルリと見回すと、すでに麗の姿は無かった。話し合いに行ったらしい。
 部員のみんなは私が戻ると、口々に『大丈夫?』と声をかけてくれた。険しい顔をした新垣に呼び出されたので、怒られたのではないかと心配してくれていたのだ。
 みんなに『問題ないよ』と笑顔で返すと、そのまま勇太のところへ向かった。約束したからには、守らなければならない。
(新垣君もがんばってくれていることだし、私もがんばらなくちゃ!)
勇太は私に背を向けるよう、コートに立ち練習していた。長身をいかしたサーブは高いところから弾丸のように相手コートへ落ちるため、経験を積んだ2年男子でも取るのに苦戦していた。みんな『マジ早ぇー!』を連発し、悔しそうに眉間にシワを寄せていた。
 勇太が練習に熱中しているのをわかっていながら、私は彼の側へ行った。モタモタしていると、やる気がそがれてしまいそうだった。
 私がすぐ側に立つと勇太は練習する手を止め、あからさまに表情を曇らせた。
「ごめん、みんな。ちょっと練習を止めても良い?」
「ああ、良いよ」
「俺は迷惑だ」
うなずく2年男子の声を尻目に、勇太は冷たく言った。私はくじけそうになるのを必死にガマンし、彼をまっすぐ見た。
 勇太は額だけじゃなく、アゴからしたたり落ちるほど大量の汗をかしていた。それでも驚くほどハンサムで、一瞬ウットリと見入ってしまった。
(しっかりしろ、私。ちゃんと言うんだ!)
「勇太君」
「何?」
「私、あなたの世話係に復帰したから」
「復帰?いつ辞めたの?」
すぐ側にいた2年男子、明石が驚いて言った。どうやら誰にも言っていなかったらしい。
「私、丸一日くらい、勇太君にクビにされていたの」
「マジで?もしかし珍しく色気が出た?」


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