フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
「村瀬さんは、みんなのためを思ってやってくれているんだ。良い気になっているワケじゃないよ」
「勇太君、やっさしぃー!」
レイナは突然猫なで声になった。男にはカワイ子ブリッ子でいくらしい。
(魂胆見え見えで気持ち悪い。でもこれで勇太君が落ちたらショックだなぁ)
負け犬よろしくウダウダ考えていたら、バタバタと走って近寄って来る多くの足音が聞こえた。見れば入り口の奥で人垣をなしていた女子が大量に教室の中へなだれ込み、あっという間に勇太を取り囲んだ。彼女達の視線は、全て勇太に注がれている。全員目がハートだ。もちろん私の事は眼中にない。
 そして矢継ぎ早に勇太へ質問しだした。
「勇太君、今日の調子はどう?」
「うーん、まあまあかな」
「私、勇太君に食べてもらおうと思って、お弁当作ってきたの。食べて!」
「私も!今日は気合いを入れて煮込みハンバーグを作ったんだ!」
「私はクリームコロッケ!」
「私は焼きそばパンとメロンパン。どっちも私が焼いたんだよ!」
「あーっ、私も出したい!」
『我こそ一番!』と意気込む女子のパワーはもの凄く、勇太は今にも押しつぶされそうだ。
(ひとまずここから逃げよう。じゃないと取材どころじゃなくなる!)
勇太を助けようと人垣の中に手を伸ばす。するとバチン!と誰かに手をはたき出された。
(いったーい!でも、まだまだ!)
もう一回違う角度から差し込む。すると誰かの手をつかんだ。
(だ、誰?)
温かくて私の手をすっぽり包み込むほど大きい手。そのまま引っ張ると人垣を割って勇太が顔をのぞかせた。
「勇太君、どこへ行くの?」
「トイレ」
私の手を引っ張れば、急いで教室を出て行こうとした。
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