フェアマン~愛しい彼はハーフの男の子~
(今週これで2回目の2人乗り。ラッキー!こんなにラッキーが続いて、3年分くらい運を使い果たしちゃったかも…)
私の不安をよそに、自転車はゆっくりと発進し、じょじょにスピードを上げていった。見慣れた景色が真横に流れていく。いつもは左右同じように流れていくのに。
 何だか不思議な感じだった。しがみついた勇太の男らしいつくりの体や、高めの体温がすぐ側にある。触れたいと願っていたものが、すぐ側にある!2回目なのにまだ信じられなかった。
 頬と耳を勇太の背中にピッタリっくつけると、彼の早い鼓動が聞こえてきた。少し上がりめの息づかいも聞こえる。
 目と閉じていると、なんだか世界の中にいるのは私と彼、2人だけのような気がした。
(少しくらい、この感覚に浸っていてもいいよね…)
それは厳しい現実から逃げているみたいだった。しかし今だけは、とろけるような甘い時間に浸りたかった。つかの間の甘い時間に。
 しかし、すばらしい時間はすぐに終わりを告げた。
(もう、駅に着いちゃった…)
予定通り自転車で最寄りの駅に着き、快速電車に乗ると、5つ目の駅で降りて10分歩いた。自転車を降りた時は寂しかったが、電車に乗り並んで長いすに腰掛けてマンションまでの道のりを一緒に歩くのは楽しかった。これから5日間、毎日出来るのだと思うと、考えただけで幸せで顔がニヤけた。
(ついでにラブハプニングもあるといいな)
恋のパワーは、私を限りなくポジティブにしてくれた。
 勇太に案内されて着いた先は、チョコレート色の壁のオシャレなマンションだった。あきらかに周りの建物より高級感がある。両親とも大手パソコン会社に勤めているので、沢山稼いでいるから住めるのだろう。
 そんな彼の家は、15階建ての10階にあった。
 高級な雰囲気に軽く怖じ気づいた私は、普通に歩く勇太の後ろをくっつくようエントランスへ入った。とても堂々としていられない。なぜなら、エントランスの床は大理石が張り巡らされ、50畳ほど広さがあり、まるでホテルのようだった。

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