マリッジリング
抱きしめる腕に体を委ね、重ねられる唇に答え、愛を囁かれ私もと答える。
あなたの思いに応えようと、あなたの全てを赦し、包むように愛そうとしながらもあなたとのすれ違いや相違を許せなかったりもする。少しずつ蓄積されたそれをあなたに気を遣わせる形で露わにする。
それはまるで両手で抱えた重い水瓶を落とすよう。静かに落ちてくる雫は知らぬうちに瓶に溜まり、気づいた時には支えられなくなり、両手から滑り落ち、大きな音と欠片と水を派手に辺りに散らす。
あなたは私を責めることなく丁寧に床に散らばった欠片を拾い水を拭く。それを私は動く事も出来ずただ立ちちすくんで見下ろしている。
そんな、あなたにとばっちりを与えているような事でしか気持を伝えられない私がとても嫌だ。
きっと初めのうちは丁寧に丁寧にその作業を行うだろうがあなたもそのうち面倒になって拭き残しが増えたり、拾い損ねた欠片をそのままに背中を向けたりするんだろう。その欠片で私が怪我をしても気づかなくなるんだろう。
それが不安で、嫌で、時々あなたを愛し続ける事にも不安を覚える。