Genesis of Noah
「レイラ、それは夢だ。」
「夢って何?それはバグなの?」
不安そうに尋ねるレイラに、ロイは静かに言う。
「バグじゃない。それは……そうだな、一種のエアポケットみたいなものだ。」
ロイは真面目な顔でレイラを見つめながら続けた。
「いいか、レイラ。俺たちは万能じゃない。
データも記憶も完全に保存できている訳じゃない。
古くなったデータはずっと取り出されることがなければ、傷がついたり修復が必要になったりする。
歳を重ねるほどに、そういうデータは増えていくんだ。
普通は無意識の中で、そのデータを修復したり削除したりしてる。」
「じゃあ、あの映像は?」
「お前の中にある記憶だよ、レイラ。それは父さんと母さんだと思う。」
メンテナンスをこまめに行っているレイラには、修復しているデータを映像として無意識に再生することも起こりうるだろう、とロイは思った。
レイラは両親のことは全く覚えていないと言った。
無理もない。
二人はレイラの記憶の回路が完全に出来あがる前に、事故で死んでしまったのだ。
「父さんと母さんは、俺たちをなにより大事にしてくれていたよ。」
だから二人の分も、ロイはレイラを大切にしようと決めたのだ。
口にこそ出さなかったが、ロイの気持ちがレイラにはよく理解できた。
「……ありがとう、ロイ。」
「心配しなくて大丈夫だ。今日はもう休もう。」
読みかけの本を手に明かりを消すロイに、おやすみと声をかけ、レイラは部屋に入った。
両親の記憶のことは気になったが、自分にはロイがいてくれるから大丈夫だ、とレイラは思った。
ベッドに体重を預け、照明を落とした部屋で、レイラの意識もゆっくりと落ちていった。