亮平のおもちゃ


 チュンチュン…
朝、カーテンからは朝日がこぼれる。外からは小鳥の囀(さえず)りが……
 またあの夢だ。
俺が失ったと思われる記憶は、幼馴染であり生徒である相馬達也の事だけ、と言われていた。
確かにその筈だった。
なのに、まだもう1人忘れてる気がする。
記憶が失われる以前、俺が愛していた人物。
学校だった。
この夢を見はじめた頃は、新見先生かと思っていたが違う。
新見先生の口調じゃない。
では、ただの夢なのでは…?
そうも考えた。
しかし、違う。直感でわかる。
アレは夢ではない。
実際にあったことだと。
夢ではなく、記憶だと。
俺は一体、誰を愛していたのだろう。
新見先生を好いていたのは覚えている。
しかし、愛していたことは1度もない。
なのに、なぜ結婚しようとしたのだろう…。
何かから逃げようとしていた気がする…。
わからない、分からない。


 「原田ぁ~、腹痛い。」

「嘘吐かないでください。」

「あ、バレた?」

その日の、5時限目。
俺の記憶から消えた、謎多き人物、相馬達也が保健室へサボりに来た。
いつもそうだ。

「昨日寝てないんだよねー。ベッド借りるね。」

「またですかぁ~?昨日も言いましたけど、高校生なんですから、最低8時間は寝なさい!!」

「はぁ…、またソレ?良いじゃん別に。」

「良くないです。自分の事は大切にしてください。…って、もう寝てる?」

「寝てる。」

…寝てないじゃん。

「あー、このベッド落ち着く。」

「そういえばいつもそのベッド使いますよね。3つもあるのに…。なんのこだわりですか?」

「んー、何となく?」

「…」

何となく…ねぇ。
なんだろう、絶対になにかあるよな。
気になる。

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