【完】霞む夏空と光
「準備終わったなら降りるぞ。あー楽しみ」



 最早嫌味にしか聞こえない啓助の言葉を無視し、私はその背の後ろを歩調を合わせず歩く。


 下に降りたところ、既にお父さんもお母さんも準備を終えていたようで、ようやく申し訳ないという気持ちが浮かんでくる。



「じゃぁ出ようか」



 その言葉で、家から全員が出て行った。


 私の前では私の家と啓助の家の両親が談笑している。


 どうにも気分の上がらない私は、楽しそうな啓助を尻目に小さく溜息を吐いた。



 私が花火を嫌いな理由―――その光で、星が霞んでしまうから。


 一体、夏の主役をなんだと思っているのか。十人中八人に花火と答えられた時には、泣きたくなった。更に言えば、残りはかき氷。



 自然と落ちる歩調、皆と距離が開いていく。


 お母さんから、早く、と声が掛かって。


 思わず、口をついて出そうになった。帰る、と。


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